「結果」から考える、声区の話。

「声区の違いとは、声帯の使い方による声の変化である」(新しめの定義によれば)ということを今まで書いてきました。

今回の記事では、声帯がどう変化したら、声が結果的にどのように変わるのかということについて書いていきたいと思います。

 

まず、チェストボイスは声帯が「分厚いまま、全体が振動する」という状態であり、ヘッドボイスとは声帯が「薄くなって、部分的に振動する」という状態です(大雑把な説明)。チェストボイスでも高音域になってくるとかなり声帯は薄くなってくるとか色々あるけど今は省略。

で、基本的にはそれによって、

  • 音域→チェストボイスは低く、広い。ヘッドボイスは高く、狭い。
  • 音量→チェストボイスの方が大きな音量を出しやすく、ヘッドボイスの方が比較的大きな音量を出しにくい。
  • 音質→チェストボイスの方が太い声(倍音が全体的に多い)になりやすい。ヘッドボイスの方が細い声(高い倍音だけが多い)になりやすい。

…みたいな感じになります。

 

で、ボイトレでよく目指される「ミックスボイス」という状態になると、声区の移行や音の高さの上下によって

「声帯に確かに変化は起こっているのだけれど、声質にはあまり大きな変化が見られず、上から下まで滑らかに連続的に変化させて出すことができる」

という感じになります。

 

なので、よくありがちな質問として、

「〇〇さんはこの部分をチェストボイスで歌ってますか?それともミドルボイスですか?」

みたいなことを聞かれがちですが、上手い人の微妙な音域の処理は、あとから歌を聞いても正直わからないことも多いです。

チェストボイスとヘッドボイスで露骨に差をつけてる場合とか、常識的に考えてその人の声域だと〇〇ボイスじゃなきゃ無理な音域を歌ってる場合とかなら簡単にわかりますけど。

 

声区の違いによる声質の変化については明確な「傾向」はあるけれど、「程度」はかなり人によって違うので、声の分析をしたい場合は声質だけじゃなく声域についても考えるといいかもしれません。それぞれの声区の音域とか、換声点の位置とか、実はそんなに人によって大きく変わるものでもないので。

 

 

 

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声区に関する言葉の変遷について。

ボイストレーニングの歴史的な話をすると、「ヘッドボイス・ミドルボイス・チェストボイス」「頭声・中声・胸声」という言葉は、

  1. 実際に身体の「その部分」(ヘッドボイスなら頭、チェストボイスなら胸)に声を響かせることのみによって、「そういう声」(ヘッドボイスなら高くて明るい声、チェストボイスなら低くて太い声)が出る
  2. 実際に「その部分」に特異的な共鳴が起こるわけではなく、「その部分」に響かせようと思うことで、声帯まわりの筋肉の状態が変わることで「そういう声」が出る
  3. 声帯まわりの筋肉の状態が変わることで、声帯そのものの振動の仕方が変わることで「そういう声」が出る(「その部分」についてはこのくらいの考え方になるともうほぼ関係ないし、例えばチェストボイスと人体の胸部についてはもう名前だけの関係みたいな)

 という変遷をたどっています。

 

で、現代人ならみんな3番目の定義を使っている…かと言えば、そうでもないので注意が必要。

私が大学生だったころのアマチュア合唱界隈とかほとんどの人が1番目の定義で発声を指導したりされたりしていて、ちょっと勉強している人が辛うじて2番目の定義を知っている、くらいの状態だったように思うのだが、今はどうなってるんでしょ。

 

古い定義を使っている人も、「ヘッドボイスは本当に頭に響いているからヘッドボイスなのだ」と信じている人もいれば、「声区が変わると声帯の振動の仕方が変わるのも知っているけど、これが伝統的な教え方だし、イメージ主体で教えたほうが初心者にはわかりやすいから…」という感じで1番目の定義で指導している人もけっこういますね。

 

 

これも結局「どれが正しいか」という問題ではなく、「どの定義を何のために使うのか」という問題であり、「ボイストレーニングの現場で、そのことについて共通認識が持てているか」という問題。

例えば「そこはもっとヘッドボイスっぽく歌って!」なんて指示が飛んできたときに、

  • 声帯を短く張りつめて歌え、という意味なのか
  • 地声で使われがちな筋肉を休め、裏声で使われがちな筋肉をもっと使え、という意味なのか
  • ふんわりと頭に響くような軽ーいイメージで発声しろ、という意味なのか

…などなど、「ヘッドボイス」の意味をどう取るかによって、取るべき過程も目指すべき結果も違うものとなってしまいがちです。

こういう場合は指示した人と受け取る人の共通理解ができていないとボイストレーニングにならないですし、

「どうしてこの先生は訳の分からない指示しかできないのだ!」

「どうしてこの生徒は指導に対して訳の分からないリアクションを返してくるのだ!」

などと感じたら、共通理解を見直すべきタイミングかと思います。




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