どのくらいできたら「できる」「できない」って言っていいんですか、という問題。

少しずつ具体的な話に入っていく前に、書いておかなければならないと思ったことについて。

 

結論から申し上げますと、

簡単に「できる」「できない」って人は言いがちだけど、

  • 具体的に、どういう状態だったら「できる」「できない」と言えるのか
  • 具体的に、「できる」「できない」の間のどのレベルにいるのか
  • 具体的に、なにができていて、なにができていないのか

という点について注意しながら、指導をしたり指導を受けたり質問をしたり答えたりすることで、トレーニングの効率は大きく上がります。

 

ボイストレーニングに限らず、何か教えたり、技術的な相談に乗るときには必ず問題になってくるのが、どのくらいできたら「できる」「できない」って言っていいんですか、という問題。

教える側も教わる側もけっこう気軽に「できる」「できない」って言いきってしまいがちなのですが、ここで「できる」「できない」の基準が統一されていないと、けっこう致命的な不具合が生じがちです。

 

例えば、ボイストレーニングでありがちな「高い声が出せない!」という質問。これは前のブログをやってた時も、リアルでも色々なところで質問されました。

が、これはとても答えにくい質問の筆頭なのです。

というのも、「高い声が出せない」という自覚症状の人にも色々いて、

  1. そのあたりの音域が全く出せない、かすりもしない、かすれた裏声すら出せない
  2. かすれた裏声ならなんとか出せるけど、音程やロングトーンなどが安定しない
  3. あからさまな裏声状態でならある程度コントロールできるが、裏声感のない充実した声で出したい
  4. 裏声っぽさのない声で発声できるが、声楽的にコントロールされていない
  5. 声楽的にコントロールされた裏声っぽくない声で発声できるが、なにか物足りない気がする

みたいな感じで、「できない」にも様々な段階があるわけです。それなのに、レベル1の人からレベル5の人までだいたいみんな一緒くたに「できない!」って相談してくるわけですからね。そりゃちょっと答えるのは難しいですよ、と。

また、症状のレベルが様々ならば、対処のレベルも当然それぞれ違うわけです。

たぶん上記の1~2の段階にある人を指導するなら、私ならまず「息の量を減らし」「声帯が閉じようとする力を弱め」「共鳴空間は小さめに」という感じで様子を見てみることになるかと思います。でも3~の人を指導するなら、声帯を閉じる力を徐々に強めていく練習からやっていくことになるかもしれない。

この辺は本当に自己申告があてにならないので、とにかく直接本人の様子見てみないことには何とも言えない部分が多いです。

という感じで、同じように記述される悩みであっても段階によっては逆の方向に力が働くようにトレーニングをすることもあるので、簡単に「できる」「できない」と言ってしまうのはちょっと危険。

 

自分に甘くなんでも「できている!」と認識してしまうのも問題ですが、無駄に基準を上げてなんでも「できていない!」と認識してしまうのも、それはそれで大問題です。

また、だれかを指導したり、だれかに指導されたりするときに、「できる」「できない」の基準がずれてしまうと、本来やるべきトレーニングの段階を踏み外して大きく実力を超えたトレーニングをしてしまったり、逆にとっくに通り過ぎているべきであるトレーニングのステージにいつまでも踏みとどまってしまったりしてしまいがちですが、これはよくありません。

 

  • 具体的に、どういう状態だったら「できる」「できない」と言えるのか
  • 具体的に、「できる」「できない」の間のどのレベルにいるのか
  • 具体的に、なにができていて、なにができていないのか

ということについて、常に考えながらボイストレーニングをしていくことが必要です。

これさえわかっていればもう「何をどうすれば望んだ声になれるのか」「私はいったいどんなトレーニングをやるべきか」というのはほぼほぼわかったような感じですし、道に迷うことはなくなるかと思います。

 

ボイストレーニングによってどういうことができるようになりたいのか?がわからなくなってしまったときは、闇雲にトレーニングをするより見聞を広めて「理想の声」「理想の人」を探してみるのがいいでしょう。

どのようなことができるようになれば、その理想が実現できるのか?そのためにはどのような段階のトレーニングをすればよいのか?自分はどの程度のことができているのか?というところがわからなければ、そのときはボイストレーニングの理論の勉強、体系的な理論にもとづく分析が必要な時である、といえるでしょう。

 

 

 

戻る