「ミックスボイス」について。

ミックスボイスという言葉は、日本ではいつの間にか自然発生的に広まったものなので、使う人によって意味が大きく違うこともある言葉なので注意が必要です。

 

 

「ミックスボイス」という言葉を、先日記事を書いた「ミドルボイス」と同じ意味で使っている人もいます。

声区のひとつであり、声帯を短く使って高音を出す状態のことですね。

これについてはすでに記事を書いているので詳しく説明しません。

 

 

他の「ミックスボイス」という言葉の使われ方としては、

「地声でも出せるけど、裏声でも出せる音域をうまく処理する技術」

のことをミックスボイスと言う人もいます。

地声と裏声の換声点(チェストボイスの最高音)は男性ならF4(mid2F)あたり、女性ならA4(hiA)くらいということになっているかと思います。

しかしこの換声点というものはあくまで目安であり、トレーニング次第でもう少し上まで地声で引っ張ってやることもできるし、裏声もこの換声点よりすこし下の音域から出してやることができるかと思います。

なのでこの「地声でも裏声でも出せる音域」、男性ならE4~B4、女性ならG4~D5あたりの音域を「がなり立てず、かといって裏返ることもなく」発声する技術を指して「ミックスボイス」と呼ぶ、という定義の仕方です。

その技術というのは、おおむね「ミドルボイスの習得」と変わらないことが多いです。

 

 

また、似たような「ミックスボイス」の定義の仕方としては、

「チェストボイス、ミドルボイス、ヘッドボイスのそれぞれを、途切れることなくスムーズに行き来できている状態」

のことをミックスボイスと言う人もいます。

チェスト、ミドル、ヘッドの3声区理論をおさえた上で、それをスムーズに行き来できている状態のことを「ミックスボイス」と定義するわけです。

「本場ハリウッド式のボイストレーニング!」みたいな売り文句のボイトレ本とかだと、こういう認識の人が多いような気がします。

この場合の「ミックスボイス」は「声区」ではないので、声区と区別するために「ボイスミックス」と言ったり、単に「ミックス」「ミックスしている/いない」と言ったりすることも多いです。

 

 

別の定義としては、

「地声に使う筋肉と、裏声に使う筋肉をうまくバランスさせた発声」

のことをミックスボイスと言う人もいます。

あえて雑な言い方をすると、地声を出すときには「声帯を縮める、厚くする、強く閉じる」方向の筋肉が、裏声を出すときには「声帯を伸ばす、薄くする、軽く閉じる」方向の筋肉が強くはたらきます。イメージの話で実態はもう少し複雑です。

しかし、地声を出すときに「声帯を縮める、厚くする、強く閉じる」方向の筋肉だけを使うと、高音になったときに力任せの汚い音しか出せなかったり、音程がずり下がったり、声帯を傷めたりするわけです。

逆に、裏声を出すときに「声帯を伸ばす、薄くする、軽く閉じる」方向の筋肉だけを使うと、蚊の鳴くようなか細く小さい声しかだせなかったりするわけです。

なので、地声を出すときにも裏声に使う筋肉を、裏声を出すときにも地声に使う筋肉を使うようにすると低音から高音まで綺麗に出せるようになるよ、という考え方があり、これを「ミックスボイス」という人もいる、ということです。

 

 

それぞれ、似たり寄ったりではありますが、違うところだけ注目すれば結構違いますよね。

「ミックスボイス」と聞いたら、その言葉でその人が何を伝えようとしているのかを考えるのはとても大切なことです。

 

 

 

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