声区に関する言葉の変遷について。
ボイストレーニングの歴史的な話をすると、「ヘッドボイス・ミドルボイス・チェストボイス」「頭声・中声・胸声」という言葉は、
- 実際に身体の「その部分」(ヘッドボイスなら頭、チェストボイスなら胸)に声を響かせることのみによって、「そういう声」(ヘッドボイスなら高くて明るい声、チェストボイスなら低くて太い声)が出る
- 実際に「その部分」に特異的な共鳴が起こるわけではなく、「その部分」に響かせようと思うことで、声帯まわりの筋肉の状態が変わることで「そういう声」が出る
- 声帯まわりの筋肉の状態が変わることで、声帯そのものの振動の仕方が変わることで「そういう声」が出る(「その部分」についてはこのくらいの考え方になるともうほぼ関係ないし、例えばチェストボイスと人体の胸部についてはもう名前だけの関係みたいな)
という変遷をたどっています。
で、現代人ならみんな3番目の定義を使っている…かと言えば、そうでもないので注意が必要。
私が大学生だったころのアマチュア合唱界隈とかほとんどの人が1番目の定義で発声を指導したりされたりしていて、ちょっと勉強している人が辛うじて2番目の定義を知っている、くらいの状態だったように思うのだが、今はどうなってるんでしょ。
古い定義を使っている人も、「ヘッドボイスは本当に頭に響いているからヘッドボイスなのだ」と信じている人もいれば、「声区が変わると声帯の振動の仕方が変わるのも知っているけど、これが伝統的な教え方だし、イメージ主体で教えたほうが初心者にはわかりやすいから…」という感じで1番目の定義で指導している人もけっこういますね。
これも結局「どれが正しいか」という問題ではなく、「どの定義を何のために使うのか」という問題であり、「ボイストレーニングの現場で、そのことについて共通認識が持てているか」という問題。
例えば「そこはもっとヘッドボイスっぽく歌って!」なんて指示が飛んできたときに、
- 声帯を短く張りつめて歌え、という意味なのか
- 地声で使われがちな筋肉を休め、裏声で使われがちな筋肉をもっと使え、という意味なのか
- ふんわりと頭に響くような軽ーいイメージで発声しろ、という意味なのか
…などなど、「ヘッドボイス」の意味をどう取るかによって、取るべき過程も目指すべき結果も違うものとなってしまいがちです。
こういう場合は指示した人と受け取る人の共通理解ができていないとボイストレーニングにならないですし、
「どうしてこの先生は訳の分からない指示しかできないのだ!」
「どうしてこの生徒は指導に対して訳の分からないリアクションを返してくるのだ!」
などと感じたら、共通理解を見直すべきタイミングかと思います。