理想の声とは

発声はバランスが大事です、と言われると「では、理想のバランスとは?」という疑問が生まれてくるものと思いますが、これが一概に答えられるものではありません。

「こうすればいい声が出せる!」とか「理想の声とはこういう状態のことである!」というのは、ボイストレーニングに詳しくなるほど言えなくなってくるものです。正解はないので。

 

というのも、「いい声の出し方」なんて

  • 本人の資質
  • 表現したいものや、時と場合

などによって一人一人、一瞬一瞬それぞれ全く違うものなので、それぞれに応じたベストをその人その時において追求していく必要があるからです。

 

声は呼吸、声帯、共鳴の3要素で作られていますので、極論を言えばこのバランスをどうするかというのがボイストレーニングの全てです。

そしてそのバランスについては個人差が大きく、例えば、息の量が多めになるほど声の調子がよくなる人もいれば、息の量が思ったより少なめの状態が個人的にベストのバランス、という人もいます。声帯を強く閉じた方が魅力的な発声になる人もいれば、声帯を他人より軽めに閉じないとまともに声が出せないよ、という人もいます。共鳴だって、どういう響かせ方がいいかは(ある程度「平均的」な範囲はあるけど)人によります。

 

また、呼吸、声帯、共鳴の3要素のバランスについて、「これがベストだ!」と思えるようなバランスを見つけられたとしても、声の高さだとか声量だとか、発音する言葉というか文字だとかを変えたくなったら、声のバランスというものは小さくとも必ず変化するので、バランスを取り直す必要がでてきますね。

他にも、どんな雰囲気や感情やメッセージを表現したいかによっても声のバランスというものは大きく変わってしまうので、その都度ベストなバランスを考えていく必要があります。

 

何のためにボイストレーニングをするか、と考えたときにも、やりたいジャンルが歌なのか詩の朗読なのか実用的なアナウンスなのかもっと日常的な会話の延長なのかで目指すべきバランスは全く変わってきます。

また、同じ歌でもクラシックなのかポップスなのか民謡なのか、 世俗的なのか宗教的なのか、表現したいのは喜びなのか怒りなのか…などなど世の中には本当に様々な歌があり、それを一概に「こういう声があらゆる面で最高!そうでない声は間違い!」なんて言えるわけがないのです。

 

正解というものがない中で理想を追い求めていくということは、非常に難しくて辛いことですが、とても面白いことでもあります。

「自分にできること」と「自分のやりたいこと」、「今の自分」と「なりたい自分」、「自分の価値観」と「他人の評価」、などなどのバランスをとりながら、そんな中で最も自分の理想に近い声、最も納得のいく答えを探していく作業がボイストレーニングです。